ロードバイクとスーパーカブで巡る四国八十八霊場と別格二十霊場

ロードバイクとスーパーカブで巡った108の霊場を順次ご紹介します。ブログの前半は寺の歴史と堅い文章が続きますが、後半は寺の見どころやご利益、寺へのアクセスや雑感などを書いてみました。🚲🛵

衛門三郎とその子らの位牌が伝わるお寺 愛媛県松山市「文殊院」(その56)

別格第九番札所 大宝山  文殊院

(だいほうざん  もんじゅいん)

住所 松山市恵原町308

電話 089-963-1960

八坂寺から文殊院まで

距離  0.7km 標高差  ほぼ平坦

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八坂寺から文殊院まで

縁起によると、別格第十番札所「西山興隆寺」を創建した空鉢上人が、七世紀に八窪という地名の山の中腹に徳盛寺として開基したのが寺の起源とされる。天長元年(824)に弘法大師文殊菩薩に導かれてこの地に逗留し、寺名を文殊院と改め現在の境内地に堂宇を移す。寺のある辺りは四国遍路の元祖とされる「衛門三郎」の邸宅があったと伝わる。衛門三郎にまつわる話は、第十二番札所焼山寺の麓にある杖杉庵の看板に些細が書かれている。文章は焼山寺保勝会によるものであり、以下転載する。

・・・伊予の国浮穴群荏原の荘の長者衛門三郎は財宝倉にみち勢近国に稀な豪族であった。それでいて強欲非道な鬼畜のようなこの長者は貧しい者を虐げ召使共を牛馬の如くにこき使って栄華の夢に酔いしれていた。雪模様の寒いある日にその門前に一人の旅僧が訪れた。乞食のようなみすぼらしい旅僧は一椀の食物を乞うた。下僕の知らせに衛門三郎はうるさげに「乞食にやるものはない追い払え」と言い捨てた。そのあくる日も次の日も訪れた。衛門三郎は怒気満面いきなり旅僧の捧げる鉄鉢を引っ掴むや大地に叩きつけたと見るや鉄鉢は八つの花弁の如く四辺にとび散った。唖然と息を呑み棒立ちとなった衛門三郎がふと我に返った時には旅僧は煙の如く消え失せていた。長者には八人の子供があった。其翌日長男が風に散る木の葉の如くこときれた。其の翌日には次子が亡くなり八日の間に八人の子供がなくなった。鬼神も恐れぬ衛門三郎も恩愛の情に悲嘆にくれ初めてこれはおのが悪業の報いかと身に迫る思いを感じた。空海上人とか申されるお方が四国八十八ヶ所をお開きになる為此の島を遍歴なされているとか。我が無礼を働いたあの御坊こそその上人と思われる。過ぎし日の御無礼をお詫び申さねば相すまぬと発心しざんげの長者は財宝を金にかえ妻に別れ、住みなれた館を後に野に山に寝、四国八十八ヶ所霊場を大師を尋ねて遍路の旅をつづけた。春風秋雨行けど廻れど大師の御すがたに会うことが出来なかった。遂に霊場を巡ること二十度会えぬ大師を慕いつづけた。二十一度逆の途を取って此の所までたどりついた。疲れた足をよろぼいつつ木陰に立ち寄り背に負うた黄金の袋を下して見ると何とした事ぞ一塊の石となっていた。いよいよ驚きが今一歩も立上がる気力もなくうち倒れている折しも大師の御姿が現れ給い、やさしく「やよ、旅の巡礼、そなたは過ぎし日わが鉄鉢を打ち砕いた長者にあらずや」との御声「われは空海いつぞやの旅僧なり」「ああ上人さまお許しなされませ、お許しなされまし」と伏し拝みざんげの涙はらはらと手を合わせ大悲にすがる長者は今こそ悪業深さ無明の闇から光明世界へ還らんとする姿であった。「そなたの悪心すでに消え善心に立ち還った。この世の果報はすでに尽きたり来世の果報は望に叶うであろう」と仰せられ、衛門三郎は大慈大悲の掌に救われ来世は一国の国司に生まれたい、と願った。大師は其心を憐み、小石を其左手に握らせ、必ず一国の主に生まれよと願い給い、衛門三郎はにっこと微笑みをのこし敢え無くなった。・・・

この話は古書により微妙に異なり、澄禅の「四国遍路日記」では三郎は長者ではなく河野家の下人、掃除係とされ、寂本の「四国遍礼霊場記」では大師への非礼は記されておらず、ただ「三郎は神仏に背けり」とされている。また、寂本は真念作「四国遍礼功徳記」の解説において「一説のはちをこひ給うふは大師にて、かれを化し玉ハん方便にて、八人の子を大師とりころし玉ふなどいう事、なを是応ぜぬ義なり」と疑問を呈している。縁起によると、大師は衛門三郎の子供の供養と悪因縁切の修法を行い、三郎の屋敷跡に寺を移したとされ、寺には三郎と八人の子の位牌が伝わる。小ぢんまりとした境内には大きな修業大師像が立ち、その横には衛門三郎夫婦の石像がある。寺の近くには衛門三郎の八人の子供の墓と伝わる八塚や、八つに割れて飛び散った鉢により出来た窪地と伝わる八窪がある。八窪は前出の徳盛寺があった地であり、窪の一つからは大師御加持水が今も湧き出る。寺は八坂寺からは二つのため池を通り過ぎるとすぐの場所にある。集落の中を通る県道沿いにあり、大きな大師像が目印。街中で普通に見かけるような小さな寺に、これだけの逸話があるとは驚きである。

御詠歌 われ人をすくわんための先だつに みちびきたまう衛門三郎

御本尊 本尊は地蔵菩薩文殊菩薩

真言 おん  かかかびさんまえい  そわか(地蔵観音)、おん  あらはしゃのう(文殊観音)

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