ロードバイクとスーパーカブで巡る四国八十八霊場と別格二十霊場

ロードバイクとスーパーカブで巡った108の霊場を順次ご紹介します。ブログの前半は寺の歴史と堅い文章が続きますが、後半は寺の見どころやご利益、寺へのアクセスや雑感などを書いてみました。🚲🛵

安産の観音様を祀るお寺 愛媛県西条市「宝寿寺」(その73)

第六十ニ番札所 天養山  宝寿寺

(てんようざん  ほうじゅじ)

住所 西条市小松町新屋敷甲428

電話 0898-72-2210

香園寺から宝寿寺まで

距離  1.4km 標高差  ほぼ平坦

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香園寺から宝寿寺まで

聖武天皇(在位724~49)の勅願により諸国に一の宮が造営された際、この地に大国主大神ら三神を祀る伊予の一の宮神社が建立される。この時、大和の僧道慈律師が法楽所としての一の宮神社の別当寺を創建したのが寺のはじまりとされる。寺は天皇より「金光明最勝王経」を賜る。当時の寺名は「金剛宝寺」であり、現在地より1km程北にあったという。弘法大師がこの地方を訪ね、霊場を開設したのは大同年間(806~810)のこと。聖武天皇の妃である光明皇后の姿をかたどった十一面観世音菩薩像を刻んで本尊とし、寺名を現在のものへと改める。大師の滞在中、国司越智氏の夫人が難産で苦しんでいたため、大師が境内にある玉ノ井の霊水を用いて加持したところ、夫人は玉のような男子を無事出産。以降、本尊は安産の観音様として信仰される。その後、中山川のたび重なる洪水の被害を受け寺は荒廃するが、天養ニ年(1145)に堂宇を再建し、山号を「天養山」へと改める。その後は大山祇神社別当寺として栄えるが、天正十三年(1585)に豊臣秀吉四国征伐の戦禍で壊滅。寛永十三年(1636年)宥伝上人により、当寺のみが新屋敷の現在地付近に移され再興される。このため、巡拝者は白坪の神社に札を納めた後、当寺で納経を行うこととなるが、延宝七年(1679)に藩主の命により神社が当寺の脇に移転される。明治初頭の廃仏毀釈により寺は神社と分離され廃寺となるが、大石龍遍上人により明治十年に神社の南隣にて再興。大正十年には予讃線の鉄道工事に伴い現在地へと移転する。手元にある霊場のガイドブックには、寺のサブタイトルが「引っ越しばかりの受難の寺」とされており、なるほどと頷ける。境内にある弘法大師像は、明治二十六年に名古屋の常磐津式尾太夫らにより奉納されたものである。同じく十一面観音立像は、大正十二年に一切女人・国家安穏・諸願成就・安産守護を願う地元の有志により奉納されたものである。境内には安産観音像もある。寺宝の孔雀文磬(けい)は鎌倉時代の作で県指定文化財。磬とは読経の際、導師が打ち衆僧に合図をする道具である。山門の脇には、中務茂兵衛が254度目の遍路をした際に建立した道標がある。中務茂兵衛とは18歳の頃に周防大島を出奔し、明治から大正にかけて四国霊場を繰り返し回ったお遍路さんで、その回数は279回。歩き遍路としては最多記録で、今後これを上回ることはないと言われる。茂兵衛が42歳、88度目の巡拝の頃から境内や遍路道沿いに道標の建立を始めたといい、現在のところ四国各地で243基の道標が確認されている。四国八十八箇所の寺はみな「四国八十八ヶ所霊場会」に加入しているが、ここ宝寿寺が数年前に霊場会を退会し、令和元年12月に再加入したのは記憶に新しいこと。退会を巡っては霊場会、寺双方に考えがあり訴訟にまで至るが、再加入までの間、霊場会は六十一番札所の香園寺の駐車場に「六十二番礼拝所」の納経所を設置。退会中も宝寿寺は納経所を開設していたことから、六十二番札所が2箇所併存する形となり、当時のお遍路さんは「どちらを参拝するか」で大いに迷わされた。訴訟を巡ってはネットで色々と意見が出ているが、お寺回りをすると色々な方に出会うし、納経所でも同様。初心者のお遍路さんに対して優しい方もいれば、そうでない方もいる。納経所で他の寺の悪口を聞かされることもある。いずれも修行と割り切り、嫌なことは忘れて淡々と進むのがお遍路さん。ちなみにこれも再加入までの間、寺の本堂と太子堂が特別開帳され、秘仏である本尊や大師坐像の写真撮影まで許可されていたのは実に有り難く、滅多にないこと。国道開通によって境内の一部が削られたせいか、寺はいたって狭く、四国霊場の中でも最小クラスと思われる。それでも堂宇はコンパクトにまとまり、日本庭園も整備されるなど寺全体清々しい感じがする。再加入までの間はお遍路さんの姿もまばらで寂しかったが、今は元に戻ったであろうか。「怖いのはコロナより人の心」と何かに書いてあったことを最後に思い出した。

御詠歌 さみだれのあとに出たる玉の井は 白坪なるや一宮かわ

御本尊 十一面観世音菩薩

真言 おん  まか  きゃろにきゃ  そわか

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